腰痛の原因と治療・対処法
腰痛
腰痛は、84%もの方が一生のうちに一度は経験するといわれており、もはや二本足で生活する人類にとっての宿命ともいえる症状で、腰の周囲に出現する痛みを主症状とします。痛みの強さや部位、悪化する動作などには個人差があり、症状は多岐にわたります。普段の生活習慣や労働環境、趣味やスポーツなど、多くの要因から発症することから、予防方法や治療方針も人によって異なります。ここでは腰痛について症状や原因、診断方法、治療方法などについて詳しく解説していきます。
腰痛とは
一般的に、腰部周辺に生じる痛みを総称して腰痛と呼んでいます。腰の部位は、厳密にいうと24個ある背骨のうち、下に位置する尾骨・仙骨から続く5つの背骨の位置を指します。この腰に相当する5つの背骨を「腰椎」といいます。
腰痛はレントゲンなどで原因が特定される「特異的腰痛」と、原因がはっきりとしない「非特異的腰痛」とに分類されますが、85%の腰痛が非特異的腰痛に該当するといわれています。
腰痛の症状
腰痛は腰部に生じる痛みが主症状ですが、殿部や背中にも痛みが広がることもあります。「屈んだ時に腰が痛い」「長く立っていると痛みが増してくる」「起床時に痛い」というように、痛みが出現するタイミングはさまざまです。
また、痛みの程度にも幅があり、生活に支障のない程度の場合もあれば、いわゆる「ぎっくり腰」と呼ばれる急性腰痛のように、歩くのも困難なほど激しい痛みが生じることもあります。腰痛の症状は個人差があるため、診察を受ける際は、痛む場所と痛みを起こす動作やタイミングを細かく医師に伝えることが大切です。
腰痛の原因と病態
腰痛は、腰そのものに原因がある場合と、腰以外の原因から生じる場合とに大別されます。それぞれどのような疾患があるのかについて解説していきます。
■ 腰に由来するもの
レントゲンやMRIなどで腰椎に問題があると診断される腰痛には、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎すべり症、腰椎圧迫骨折、変形性腰椎症、側弯症などが挙げられます。腰椎に何らかの異常が認められた場合に、これらの診断名が付けられます。また、他にも脊椎腫瘍や脊椎感染症などによって生じる腰痛もあります。
■ 腰以外に由来するもの
血管の病気である解離性大動脈瘤、尿管結石等の泌尿器疾患、子宮筋腫や子宮内膜症等の婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍等の消化器系の病気、腰とは別の変形性股関節症などの整形外科の病気などもあります。
それに加え身体表現性障害、心理的要因が重なった場合は統合失調などの精神疾患も見受けられます。
腰痛の診断方法
一般的には問診・触診・視診、レントゲン検査を行い、腰痛の病態に合わせて診断を進めていきます。痛みが治まらず悪化している、足に力が入らない、痺れがある、排尿排便障害があるといった症状がみられる場合は、神経に障害がある可能性があり、MRI検査をおこなうこともあります。また、腰痛以外に内科的な症状が疑われる場合は血液検査をおこなうこともあります。
腰痛の治療方法
腰痛の治療で用いられるのは主に「トリガーポイント注射」「装具療法」「リハビリ」が挙げられます。それぞれの治療方法について解説していきます。
■ トリガーポイント注射
腱、筋肉、筋膜の炎症に対する注射で、炎症を抑えて疼痛の緩和を図ります。トリガーとは発痛点のことで、筋肉部位を押すと痛みを感じる場所となります。
トリガーポイント注射は、筋膜性の痛みがある部位のすべてが適応です。筋膜への注射なので、施術後はすぐに帰宅可能です。
■ 装具療法
コルセットと呼ばれる、腰にベルトを巻いて腰への負担を軽減させる治療方法です。コルセットを巻くことにより、腹圧が高まり腹筋や背筋に力が入りやすくなるため、腰の安定性が高まることで、腰への負担を軽減させます。
■ リハビリ
リハビリは物理療法と運動療法に大別されます。
物理療法は、熱や電気などの物理的なエネルギーを利用した治療方法で、腰痛では主にホットパックやマイクロ波といった温熱療法、低周波やSSPといった電気療法が用いられます。運動療法は、関節の動きを改善する可動域訓練や、腰回りの筋肉を強化する筋力トレーニングなどの運動を通して痛みの改善を図る治療方法です。
腰痛の予防・改善方法
腰痛の予防は、普段の生活習慣を見直していくことが重要になります。なぜならば、腰痛は普段の姿勢や動き方による負担、運動不足などが腰へのストレスを強めて引き起こすことが多いからです。具体的にどのようなことに気を付けていけばよいのかについて解説していきます。
■ 正しい姿勢を保つ
背骨は緩やかなS字カーブの形状になっており、この形状には重力や床反力からの衝撃を和らげている役割があります。そのため、このS字カーブから崩れるほど、腰には負担をかけてしまうことになります。特に多いのが、椅子座位で背中が丸まったり、浅く座り背もたれによりかかったりする姿勢です。このような姿勢を長時間とることは腰への負担を強めてしまうため、腰痛の原因になります。また、腰を反りすぎたり、足を組んで座ったりするのも望ましくありません。
座った姿勢は、骨盤を起こし、少し胸を張ってあごを引くことで、横から見た時に背中がまっすぐになっている姿勢が理想的です。
立った姿勢の場合も背骨のS字カーブが描かれているのが理想的で、横から見た時に、足首外側のくるぶし、肩、耳の穴のラインが一直線になることを心がけましょう。
■ 腰痛予防・対策のストレッチ
腰痛予防におすすめなのは股関節のストレッチです。股関節は、太ももから腰や骨盤にかけて走行する筋肉が多いため、腰と連動して動いています。そのため、股関節が硬い人は、腰への負担を強めてしまうため腰痛を起こしやすいのが特徴です。股関節のストレッチをすることで腰への負担を減らし、腰痛予防を目指していきましょう。ここでは、腰痛予防に役立つ股関節のストレッチの中から簡単なものを2つご紹介します。
- 股関節前面のストレッチ 股関節の前にある腸腰筋のストレッチです。特に、腰が反りやすい人は硬くなりやすい筋肉ですのでしっかりとストレッチしましょう。【方法】 ①足を歩幅よりもやや大きく前後に開き、前足の膝を90度曲げて、後ろ足は膝を床につきます。
②両手を重ねて前足の膝の上に置き、上半身を前にスライドさせます。
③後ろ足の股関節前面が伸びていることを感じ、20秒程度ストレッチします。
これを左右交互に行います。 - 股関節後面のストレッチ 股関節後面にある大臀筋(だいでんきん)のストレッチです。特に腰が丸まりやすい方、長時間デスクワークをする方が硬くなりやすい筋肉ですので、しっかりとストレッチしましょう。【方法】 ①座った状態で、足を組むようにして伸ばしたい方の足を曲げて反対の膝の上に乗せます。足首の外くるぶしを膝に乗せるようにします。
②背中が丸まらないようにして、上半身を前傾させていきます。
③お尻の筋肉が伸びていることを感じながら20秒程度ストレッチします。
これを左右交互におこないます。
いずれのストレッチも1日に1回、毎日継続しておこなうようにしましょう。
■ 適度な運動
腰痛は運動不足や長時間の同一姿勢から起こることも多いため、予防するには適度な運動を生活に取り入れることが大切です。朝ラジオ体操をする、デスクワークの合間に体操をする、1日30分ウォーキングをするといった運動習慣を日常に取り入れるようにすると良いでしょう。なかでもウォーキングを継続することは腰痛予防にも効果が期待できるとされています。
より効果的にウォーキングをおこなうには、以下のようなポイントを意識すると良いでしょう。
・目線は前を向く
・腕を大きく振る
・踵(かかと)から足をついて、足の親指で抜けるように意識する
・やや大股で歩く
・少し息が上がる程度のスピードで歩く
■ 腰に負担のかかりにくい寝方
寝ているときも姿勢によっては腰痛に影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。
例えば、仰向けで両脚を伸ばした姿勢は、脚の筋肉が骨盤を下に引っ張ってしまうため、腰への負担を強めてしまいます。また、横向きで、足を大きく前にクロスさせる寝方も骨盤や腰に捻るストレスがかかり、望ましくありません。さらに、寝返りの回数が少ないと負担が一点に集中してしまい背骨に負担をかけてしまいます。
腰への負担を軽減させるには、寝方を工夫することも大切です。人によって、体に合う寝方は違いますが、腰に負担のかかりにくい寝方を紹介しますので、ぜひ試してみてください。
・仰向けで膝の下にクッションや枕を入れて、膝を立てる。
・横向きで膝と膝の間にクッションを挟む。
・寝返りがしやすいよう、広いスペースを確保し、掛け布団は軽めにする。
腰痛に関するよくある質問
腰痛に関して、患者さまが気になる質問に対してお答えいたします。
- 腰痛になる原因は何ですか?
さまざまな原因がありますが、普段の生活による負担の蓄積によって腰痛を引き起こすことが多いです。腰に負担のかかる姿勢をとっていたり、下の物を拾う時のかがみ方だったり、少しの負担が徐々に蓄積されて痛みとして現れてきます。これは労働条件や生活習慣にも左右されるので、環境を変えないと根本原因を解決できないこともあります。
- 腰痛を改善する方法はありますか?
結論からいうと改善方法はあります。しかし、腰痛の原因は人によってさまざまなので、その方の体に合った改善方法を見つけていかなければなりません。そのためには、医師による医学的な診断や理学療法士による身体チェックなどを通して、自分に合った腰痛の改善方法を一緒に見つけていくことが重要です。
- 腰痛はどのくらいの期間で改善しますか?
腰痛の改善期間は人によって違うため、一口にどのくらいかかるとはいいきれません。なぜならば人によって腰にかかる負担や原因、身体能力、性格、生活習慣などは多岐にわたるため、腰痛が回復していくスピードも個人差があるからです。<br>自分の腰痛の原因をしっかりと把握して、普段から気をつけるべきことや予防方法を実践している方は比較的早期に改善がみられていきます。