膝関節再生医療の実際<PRP療法(2)>PRP療法は、どんなときに使われているの?
テニス肘、ジャンパー膝などで有効
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法は著名なスポーツ選手がケガの治療にとり入れたことで、多くの人に知られるようになりました。
PRP療法は、患者自身の血液をもとに、遠心分離装置などを用いてPRPを作製し、患部に注射するものです。PRPには新しい組織や細胞の成長を促す因子が豊富に含まれているため、炎症を鎮め、痛みの緩和に役立ちます。
整形外科では、腱付着部(腱が骨に付着する部分)の疾患に効果が高いと考えられています。代表的なのは、上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)です(図1)。テニスの愛好家にしばしばみられるので、テニス肘(ひじ)とも呼ばれています。ものをつかんで持ち上げる動作をしたり、タオルをしぼる動作をしたりすると、肘の外側から前腕にかけて痛みが出ます。
テニス肘の患者230人に対して、PRPで治療した人とそうでない人を比べた試験が海外で行われました。痛みの改善率は、12週では差がありませんでしたが、24週ではPRPで治療した人が71.5%、PRPで治療しなかった人が56.1%でした1)。PRPで治療した人のほうが、明らかに改善率が高かったのです。
上腕骨の内側で生じる上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)は、ゴルフをする人にしばしばみられるため、ゴルフ肘とも呼ばれています。このゴルフ肘に対してもPRP療法は効果があると考えられています。
ジャンパー膝と呼ばれる、バレーボールやバスケットボールの選手など、ジャンプ動作の多い人にしばしばみられる病気にも、PRP療法は有効だと考えられています。ジャンパー膝には、膝蓋骨(しつがいこつ:膝のお皿)の下部からすぐ下の靭帯(じんたい)にかけて痛みが生じる膝蓋腱炎(しつがいけんえん)と、膝蓋骨の上部が痛む大腿四頭筋腱付着部炎(だいたいしとうきんけんふちゃくぶえん)があります。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)のスポーツ選手46人を対象に、PRP療法と体外衝撃波療法(衝撃波を皮膚の上から患部に照射して痛みを取り除く治療法)の効果を比較した海外の研究では、治療後2ヵ月の時点では差がなかったものの、6ヵ月と12ヵ月では、PRP療法を受けた選手のほうが、より痛みの改善がみられています)。
膝のケガで治りを早めるPRP療法
運動をするとき、膝を安定させる役目を果たす膝関節内の膝前十字靱帯(ひざぜんじゅうじじんたい)の損傷もスポーツ選手に多くみられます。ジャンプからの着地や、ランニングの急停止や急な方向転換をしたときに膝が外れたようになり、数分間痛みのため動けなくなったり、時間とともに腫れてきて膝の曲げ伸ばしができにくくなったりします。膝前十字靱帯の治療は、自分の体の腱(膝屈筋腱など)を移植する再建術が行われていますが、移植した腱が成熟するかどうかがポイントだといわれています。
膝前十字靱帯再建術の際に、PRP療法を併用した場合と、併用しなかった場合を比べた海外の研究では、MRIで観察した移植腱の成熟が、PRP療法を併用した場合は平均177日なのに対し、併用しなかった場合は平均369日でした3)。従来、治るのに1年かかっていたものが、PRP療法を併用すると、半年に短縮されたということです。
変形性膝関節症の治療にも応用
このように、PRP療法はスポーツによる筋肉・腱などの外傷・障害の治療に効果があると考えられており、最近では変形性膝関節症の治療にも応用されています。
1)Mishra AK, et al. Am J Sports Med. 2014; 42(2): 463-471.
2)Vetrano M, et al. Am J Sports Med. 2013; 41(4): 795-803.
3)Radice F, et al. Arthroscopy. 2010; 26(1): 50-57.
《参考資料》
金森章浩ほか, 臨床スポーツ医学. 2017; 34(12): 1252-1256.
監修医師紹介
西新宿整形外科クリニック
沼倉 裕堅 院長
Hirokata Numakura