膝関節再生医療の実際<PRP療法(3)> PRPに含まれる成長因子とは?
成長因子が傷の治りを早めたり、痛みを和らげたりする
スポーツによる外傷・障害の治療や、変形性膝関節症の痛みの緩和に、血液の成分である血小板のもつ自然治癒力を活かしたPRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法が用いられています。PRPは特殊な技術で血液から血小板を多く含む部分を抽出したもので、これを患部に注射すると、傷んだ組織の修復や痛みの緩和が期待できます。
このような効果があるのは、PRPに成長因子という物質が含まれていて、それが作用するからだと考えられています。成長因子は細胞増殖因子とも呼ばれていて、細胞の増殖、分化、遊走(細胞の移動)、細胞死といった機能を調節する働きをするたんぱく質です。
成長因子は非常に多くのものが発見されていますが、ここではPRPに含まれている代表的な成長因子について紹介します(図1)。
・TGF-β(transforming growth factor beta:形質転換増殖因子ベータ)
線維芽細胞の増殖を促すほか、コラーゲンの合成も促進します。
・VEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)
血管内皮細胞の増殖や血管新生を促進します。
・PDGF(platelet-derived growth factor:血小板由来増殖因子)
血管新生や血管平滑筋細胞、線維芽細胞の増殖を促進します。
・FGF(fibroblast growth factor:線維芽細胞増殖因子)
線維芽細胞の増殖を促し、傷の治癒を促進します。
・IGF(insulin-like growth factor:インスリン様増殖因子)
成長ホルモンの働きに関与し、骨の成長を促します。
このように、PRPには多数の成長因子が含まれています。これらが、新しい血管をつくったり、細胞を増殖させたりして、結果として傷の治りを早めたり、痛みを和らげたりすると考えられます。
調整方法や人によって成長因子の濃度は変わる
PRP療法は自由診療で行われています。このため、PRP療法は標準化されておらず、病院やクリニックによってPRPの調整方法には違いがあります。実は、このPRPの調整方法によって、成長因子のそれぞれの濃度が異なるのです。特に白血球をどれだけ含むかによって、成長因子のそれぞれの濃度が大きく異なるという結果が報告されています。
また、成長因子の種類によっては、年齢によって濃度が変わると考えられているものもあります。PRP療法では、患者自身の血液をもとにPRPを作製するため、安全性が高い治療である反面、人によって成長因子の濃度が異なっている可能性があります。PRP療法による効果が人によって異なるのは、このあたりのことも原因の1つかもしれません。これは、今後の研究課題といえるでしょう。
1)Kobayashi Y, et al. J Orthop Sci. 2016; 21(5): 683-689.
《参考資料》
金森章浩ほか, 臨床スポーツ医学. 2017; 34(12): 1252-1256.
伊藤壽一, 耳鼻臨床. 2007; 100(1): 1-5
監修医師紹介
西新宿整形外科クリニック
沼倉 裕堅 院長
Hirokata Numakura