人工膝関節置換術とは|手術方法や費用や入院・リハビリ期間について
人工関節置換術とは
人工関節置換術とは、変形性関節症や関節リウマチなどの病気やケガによって、変形したり傷んだりした関節の損傷箇所を切除して、代わりとなる人工関節を固定する手術です。人工関節置換術では、関節の痛みが取り除かれ、関節の機能の回復が望めるため、日常生活の質の向上につながる手術です。
人工関節置換術は、ひざ、股関節、肩、ひじ、指、足といったさまざまな関節におこなわれます。2020年度の各人工関節の販売出荷セット数は、人工膝関節が97,592セット、人工股関節が70,119セット、人工肩関節が5,340セット、人工肘関節が688セット、人工指・その他関節が1,711セットであり、各人工関節の出荷販売数が手術件数とリンクすると考えると、人工関節置換術は、ひざ関節と股関節に多いということがわかります。
傷んだ関節部分を切り取り、人工関節に置き換える
人工関節置換術は、関節の傷んだ部分を取り除いて、関節の表面を人工物に置き換える手術です。では関節が傷んでいるというのはどのような状態でしょうか。また、置き換える人工関節とはどのような物でしょうか。手術方法を踏まえて見ていきましょう。
痛んだ関節とは
傷んだ関節とは、骨の表面にある関節軟骨が弾力性を失い、すり減って変形し、関節の動きが悪くなったり、骨と骨が直接ぶつかることで痛みや炎症が起きたりしている状態です。
人工関節の構造と素材
人工関節は、関節によって仕組みや形が違います。たとえばひざ関節の場合、金属製やセラミック製の大腿骨コンポーネントと脛骨コンポーネントと、医療用プラスティック製の脛骨インサートからなります。必要に応じて膝蓋骨(しつがいこつ:ひざの皿のこと)も使用します。素材は耐久性の面から、金属はチタン合金やコバルトクロム合金などが使われていることが多く、医療用プラスティックは超高分子量ポリエチレンです。
人工関節に置き換える手術
ひざ関節を例に説明します。最初に膝関節の脛骨側と大腿骨側の骨の傷んだ部分を削りとり、表面を整えます。脛骨と大腿骨の削り取って取り除いた箇所に、各コンポーネントをはめ込みます。コンポーネントは、骨セメントを使って骨に固定したり、特殊な加工が施されたコンポーネントを使用して骨セメントを使わずに固定したりします。
耐用年数は20〜25年
人工関節はいくつかの部品が組み合わされて、複雑な関節機能を再現するため、関節の部位によって手術後の耐久性は異なりますが、おおよそ20年から25年は入れ替えの必要がない方が多いようです。人工関節の入れ替え手術は身体への負担が大きいため、年齢や日常生活への影響の具合を考えながら、手術時期の判断が必要です。
ただし材質の進歩は著しく、新しい素材の製品は耐用年数も長くなっています。早い段階から手術が可能となれば、快適な日常生活を取り戻せることが期待できます。
人工関節置換術の種類
現在おこなわれている人工関節置換術は、ひざ、股関節、肘、肩、指、足の関節です。各関節に対し、さまざまな手術の種類があります。以下に紹介します。
関節の部位 | 手術の種類と特徴 | |
---|---|---|
ひざ | 人工膝関節全置換術 (Total Knee Arthroplasty:TKA) | ひざの両側を置換する方法。 関節軟骨や半月板も切除して置換するため進行した変形にも適応可能。 |
人工膝関節単顆(たんか)置換術 (Unicompartmental Knee Arthroplasty:UKA) | ひざの片側だけを置換する方法。 人工関節が小さいため傷が小さく、負担が少ない治療。 | |
MIS(最小侵襲手術) | 小さい皮膚切開や筋肉を温存しておこなう手術。 負担が少なく回復も早い治療。 |
人工膝関節置換術の対象となる疾患
人工関節置換術は、変形してしまった関節を人工関節に置き換える手術で、さまざまな関節疾患を対象としています。なかでも多く用いられているのが、変形性膝関節症と関節リウマチです。
変形性膝関節症
変形性膝関節症は、膝関節にあるクッションの役割がある軟骨がすり減り、膝に痛みがでる関節疾患です。加齢による軟骨のすり減りが主な原因とされており、高齢になるほど発症しやすい傾向にあります。若い世代でも過度な膝への負担や、体重の増加などの原因によって発症するケースもあります。
初期段階では、平常時に痛みはなく、立ち上がりなどの動作で痛みを感じる程度です。進行が進むと階段の昇り降りなどが困難になり、ついには歩行も難しくなります。末期症状となると、人工関節置換術などの外科的な手術が適用になります。
変形性膝関節症の詳細はこちら
関節リウマチ
関節リウマチは、膝関節だけでなく指や手首などの関節に痛みと腫れがでる関節疾患です。症状が進行すると骨や軟骨が壊され、関節が変形してしまいます。変形性膝関節症と異なり、免疫機能の異常から生じる疾患のため、関節の痛みだけでなく微熱や倦怠感なども症状として現れるのが特徴です。
薬物療法で改善がみられない場合は、人工関節置換術などの手術療法が適用となります。
関節リウマチの詳細はこちら
人工膝関節置換術が適応するケース
ここでは人工膝関節置換術は、どのような場合に適応になるのかについて解説します。
痛みによって日常生活が送れない
ひざの痛みによって日常生活に支障をきたした時が、人工膝関節置換術を検討する時期といえます。ただし、患者さまの行動範囲や、どのような生活を送りたいかによって、手術をする時期は異なります。日常生活の痛みは強くないものの、テニスやゴルフなどスポーツを痛みなく楽しみたいという方と、身の回りの日常生活ができればよいという方とでは、手術の時期は異なる可能性があります。よく主治医と相談して手術の時期を決めることをおすすめします。
手術以外の方法を試みても改善が見られない
たとえば変形性膝関節症の治療の場合、最初は消炎鎮痛剤などの薬物療法と、リハビリや運動療法、装具療法や温熱療法などを併用する保存療法が選択されます。保存療法によって痛みがコントロールできず日常生活に支障をきたしたり、関節の機能が改善しない場合は、人工膝関節置換術を検討する時期といえます。
手術を検討する前に:膝関節再生医療
人工膝関節置換術を検討する前に、もうひとつ検討すべき治療方法として「膝関節再生医療(PRP療法)」があります。手術を避けたい方にとっておすすめな、自身の細胞を利用し自己治癒力を高める治療方法です。
後述いたしますが、人工膝関節置換術は費用がかさむほか、手術後のリハビリや生活の制限など、乗り越えるハードルが数多くあります。もし手術を受けずに治療できるのであれば、まずは再生医療を検討されることをおすすめいたします。
膝関節再生医療(PRP療法)は、組織の修復や抗炎症作用を促す成長因子を放出する血漿(けっしょう)成分を、ひざ関節に注入すると、傷んだ組織を修復して再生し、腫れや痛みを改善する治療方法です。注入する血漿成分は、自分の血液を遠心分離機にかけて採取する多血小板血漿(PRP)です。施術には入院の必要がなく身体への負担が少ないうえに、人工膝関節置換術と同等の治療効果が期待できる治療法です。
たとえば変形性膝関節症の場合、変形の進行具合により症状も人それぞれです。西新宿整形外科クリニックでは、変形性膝関節症の重症度分類(KL分類)に合わせて、多血小板血漿PRPを基本とした複数のPRP療法のメニューがあります。
膝関節再生医療について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
人工膝関節置換術の流れ
人工膝関節置換術は、入院やリハビリ期間がともなう大きな手術となります。ここでは実際の人工膝関節置換術について、手術決定から手術、リハビリ、退院までの流れの一例を紹介します。
X線検査により診断できます。関節リウマチなどを除外するために、また、血液検査やX線検査で映らない関節軟骨などの状態を診るためにMRI検査をおこなう場合もあります。
手術前に、手術ができる全身状態であるか、他の疾患がないかなど必要な検査をおこないます。また、出血の可能性があるため、自己血輸血(じこけつゆけつ)のための貯血をする場合があります。
退院後の生活様式を見直し、手術に備えて体調管理をします。
手術時間は1時間半~2時間程度です。
疾患のある膝関節の骨の損傷面を取り除き、代わりとなる人工関節を固定します。入院は1ヵ月程度です。
手術翌日には、トイレに行くなどベッドから離れることが多いようです。手術から退院までの期間、日常生活に戻るためにリハビリテーションをおこないます。
退院後も定期的な受診が必要です。
人工膝関節置換術の入院・リハビリテーション期間
入院期間やリハビリテーションの期間は、医療機関によって異なります。おおよその目安を紹介します。
入院は概ね30日間
入院期間は、通常約2週間~1ヵ月程度と考えておきましょう。
手術は片方ずつ実施することが一般的
変形性膝関節症は、両ひざに手術をするケースがほとんどですが、患者さまは高齢の方も多く負担を考えて、片方ずつ間をあけて手術するのが一般的です。
リハビリテーションは段階的に進めていく
リハビリテーションの期間は、患者さまの年齢、手術前の筋力や関節の状態によって異なりますが、手術後から開始し退院までの約1ヵ月です。
リハビリテーションは、手術後、ベッド上でひざの曲げ伸ばしから開始し、車椅子に移動する、平行棒や歩行器を使用した歩行訓練、杖を使った歩行訓練と段階的に進めていきます。同時に日常生活に戻るための階段の昇り降りや入浴などの訓練をおこないます。
人工膝関節置換術の費用
人工膝関節置換術の医療費
人工膝関節置換術の手術や入院にかかる医療費は、片側のひざの初回の手術の場合、入院期間が3~4週間で約180万円~230万円です。これには、診療報酬で決められた人工関節置換術の手術費の379,600円(2018年4月~2022年3月)や人工関節の機器代、麻酔料、リハビリテーション費、食事療養費の他、病名を元に一括で決められた薬剤費、検査費、入院基本料などが含まれています。診療報酬で決められているため、どの医療機関でもほとんど違いはありません。
人工膝関節置換術の手術後はどの程度の運動ができるのか
手術後、どの程度の運動ができるようになるのか、気になるところです。手術後の運動についてみていきましょう。
ウォーキングや水泳などは可能
個人差はありますが、ウォーキングや水泳などは、手術後3〜6ヵ月後にはできるようになります。その他、テニスやゴルフ、サイクリング、ハイキング程度の山歩きなど、ひざに負担がかからないスポーツは差し支えありません。ただし、ひざをひねらないように注意します。骨粗鬆症予防や体重管理のためにも、無理のない程度に運動することをおすすめします。
激しくぶつかり合うスポーツは不可能
運動の中でも、サッカーや野球など激しくぶつかる可能性のあるスポーツは、控えた方がよいでしょう。また、マラソン、ジョギング、激しいエアロビクスなど、ひざに衝撃のある運動は避けましょう。
手術以外の選択肢!切らない再生医療
人工関節置換術は、傷ついて変形してしまった関節を人工関節に換えて痛みを取り除く手術です。最初は薬物療法などで痛みを緩和したり、進行を抑えたりすることが基本となります。薬で改善が見込めない場合に手術が選択されます。人工関節置換術を受けることで、日常生活で生じる痛みが改善され、生活の質向上にもつながります。しかし入院やリハビリがともない、身体への負担が多いことは否めません。費用も180〜230万円と高額です。
そこで近年では、薬物療法のような保存療法と手術療法の間に位置づけられる新しい治療法として、再生医療が注目されています。再生医療とは、自身の血液にある細胞を抽出して患部に注入し、関節の痛みを改善する治療法のことです。手術と異なり、メスを入れることなく膝の痛みを改善でき、変形性膝関節症にも多く用いられています。身体に負担が少なく、入院不要でできる再生医療。新しい選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
膝関節再生医療の詳細はこちら
監修医師紹介
西新宿整形外科クリニック
沼倉 裕堅 院長
Hirokata Numakura